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第296話

奈々は怒りに震え、歯を食いしばりながら言った。「この件で私を責めないでよ。今は状況が違うってわかってるでしょ」

「何が違うの?」弥生は冷静に答えた。

「だって、私たち同じ女じゃない?」

「そっか」

奈々は会話が行き詰まっていることに気づき、弥生を鋭く見つめた。「なんだかあなたから私に対してすごく敵意を感じるんだけど。私たちって別に敵同士じゃないわよね?」

「誤解しないで。私はあなたを敵だなんて思っていないわよ」

そう言って弥生は一瞬言葉を止め、続けた。「でも、私たちは友達でもないでしょ?」

その点に関しては、奈々も同意した。

彼女は一度たりとも弥生を友達だとは思ったことはなかった。瑛介の友達だから仕方なく受け入れていたが、心の中では常に弥生の存在が気に障っていた。

奈々が黙っているのを見て、弥生は微笑んだ。「あなたもそう思っているのね」

奈々は何も否定せず、バッグを持って弥生の前に座り込んだ。「で、どういうこと?どうしてまだ離婚していないの?」

「彼を見つけられないのに、どうやって離婚するの?」

弥生の答えに、奈々は眉をひそめた。見つけられない?

彼女は弥生の言葉の裏に、実は瑛介が離婚したくないのではないかという意味が隠されているのではないかと考え始めた。

しかし、奈々は弥生の前で「瑛介があなたと離婚したくない」と認めることができなかった。

認めてしまえば、自分のプライドが傷つくからだ。彼女は強引に笑いを浮かべた。「どうやら最近、瑛介は仕事で忙しいみたいね。もう少し待てば、私から連絡してあげるわ」

弥生は奈々の態度や、彼女が瑛介に会うために会社に駆け込んだ様子から、何が起こっているかを察した。

どうやら奈々も瑛介と連絡が取れなかったようだ。そうでなければ、こんなに焦って会社まで来て、強引に彼に会おうとする必要はないだろう。

弥生は少し唇を噛み締めた。もしかして、自分が瑛介を誤解していたのだろうか?彼は本当に忙しいだけなのか?

でも、彼が自分に言った「離婚したくない」という言葉はどう説明すればいいのだろうか?

考えても答えが出ない。弥生は立ち上がり、「じゃあ、彼に連絡してくれない?私はこれで失礼するから」と言い、オフィスを去った。

奈々は弥生が去るのを見送り、怒りのあまりバッグをソファに投げつけた。「この女......」

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